2007・極私的ブックアワード

私がアワードを出したからって、なんなんだ…?
そんな疑問はまあ、置いといて。

今年読んだ本、しびれた本を総括したいと。そんな企画でございます。


・2007年度新刊部門(2007年1月1日〜2007年12月29日初版発行)
・旧作部門(2007年以前に初版発行)

以上、ふたつに分類して行ないます。



・・小説・・

○2007年度新刊部門



第1位 山田詠美『無銭優雅』(幻冬舎


 次の日が仕事だというのに、深夜三時まで読んでしまい、おもしろすぎてそのまま寝れなくなった。
 どうしてもっと騒がれないのかが分からない、最強、を実感させられる傑作。
 もしかして、文学的にハイ・ブラウすぎたの??
 「恋愛」というテーマに比べたら知られていないかもしれませんが、
 山田詠美は、一貫して「死」を書いてきた作家です。とくに「最後の資料」以降の作品には、いつも、
 隣に「死」がただよっている。生活の中に、生命の中にある「死」とはなにか。「死」がそこにあるとは、
 どういうことか。それをずっと、突き詰め、しかも魅力的な作品に結晶させてきた。
 その到達点が『無銭優雅』ではないかと思います。
 心中する前の日の心持ちで、付き合っていかないか――
 この言葉の意味が分ったときに、めくるめく衝撃とともに、世界が変わります。

無銭優雅

無銭優雅


第2位 いつき朔夜『午前五時のシンデレラ』(ディアプラス文庫)


 読んだあと、感動して立ち上がれなくなった。
 作品の世界観、キャラクター設定、至りつく地点、すべてに打ちのめされる。
 ひとことで言うと、これは、「異文化コミュニケーション」。
 まったく違う人間が出会い、そして、分かり合う、とはどういうことなのか?
 さらに、「飛良猛」のキャラクター造詣が出色。BLの攻めと結婚したいと思ったのは、生まれて初めてです。
 ああ、攻めが性格破綻者じゃないBL小説って、すばらしい。
 登場する「やくざ」が、地域密着感を持って描かれているのもすばらしい。
 ところどころの、荒事のシーンが、非常に好きです。
 歯で、お互いの指に巻かれた紐を噛み切るシーンが、最高だった。
 最後、飛良の口から「身内」という言葉を聞いた瞬間、じわーーーーっと、涙があふれてきた。
 とにかく読んでくれ! と、熱く勧めたい逸品。

午前五時のシンデレラ (ディアプラス文庫)

午前五時のシンデレラ (ディアプラス文庫)


第3位 小倉千加子『ナイトメア 心の迷路の物語』(岩波書店


 小説・・・というより、新形式の評論に近い。抒情を排し、実にクレバーな文体です。
 なので、物語に浸るつもりで読むと肩透かし。でも…これは、せつない。問答無用に、「くる」ものがある。
 自分の「頭の良さ」と、「女の子であること」との間で、息苦しさを感じたことがある。
 そして、本を読むのが好きだった。――そんな「過去」の、痛みに、ありありと触れてくる一冊。
 はたして、この小説の与える「痛み」は、「癒し」だったのか? ?
 けれども、痛みを覚える事でしか、傷の所在を知ることでしか、相対化できない「経験」もある。
 そうだよ、私って、私たちって、難儀なんだよっ…!!! と、ぶち切れるのもまたカタルシス
 そうとう暗い気持ちになりますので、元気のある時にどうぞ。

 

ナイトメア―心の迷路の物語

ナイトメア―心の迷路の物語

 




○旧作部門 ――今更読んで、すみません…!




第1位 野坂昭如エロ事師たち』(新潮文庫


 最高。傑作。抱腹絶倒。
 エロ魂も、テンションも、なんなら人生の諸々も・・・落ち込んでるなら、手に取って見るべし。
 ああ、自分の悩みなんて、ちっさいなあ。人間って、物悲しくっておかしいなあ。
 そんな、諸行無常の気持ちにさせられる。そして、諦観から何かが立ち上がる。
 しっかし、エロにかける人間の執念って、本当に面白いですね。
 そして、「スブやん」のスピリットは、同人ないしオリジナルBLにかける書き手の気持ちに似ている(笑)
 これがエロやっちゅうことを、餓鬼どもに、バーンと見せつけてやるんやっ…!(注、餓鬼ども=あいつら、くらいの意味)
 ――この「エロ」の部分を、任意のネタ、または、「おやじ受け」とか、「年下攻め」とか、
 そういったものに置き換えてみるとあら不思議(笑)  マイナーだと、なお、力が入ります。うん。
 

エロ事師たち (新潮文庫)

エロ事師たち (新潮文庫)


第2位 カフカ『変身』(新潮文庫


 その昔、教科書で冒頭部を読んで、「虫」に引き。このほど、はじめて、頭から終わりまで読みました。
 伊達じゃなかった・・・! 本当に、今更読んですみません!!
 今読んでも、全く、古くないことに驚愕しました。ひたすら、「すげえ」の一言であります。
 読む人ごとに、またその時代ごとに、解釈が出てくるんでしょうけど、
 私は、最初「ひきこもり」のことを考え、次に「介護」のことを考えました。
 家族として愛してもらえるのは、じつは、「家族の利害」に抵触しない間だけ。
 いちじるしく、そこを脱却した時に、その人間は、「家族」から「エイリアン」になりかわる。
 人間の残酷さ、「集団」の意思、・・・ いくらでも、考えを汲み上げさせてくれます。
 来年も、カフカをもっと読みたい。
 

変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)


第3位 江國香織『思いわずらうことなく愉しく生きよ』(光文社文庫


 去年からの私のテーマは、「暴力」でした。
 上司から加えられてきた暴力にも参っていたし、親しさの名のもとに繰り出される、友人の言葉の暴力、
 差別など、ふるまいの暴力にも悩んでいました。
 「他人じゃない」って、そう言うと聞こえはいいけれど、「個人」として相手を扱わないのは、どうしてなのか?
 なぜ大勢の人にはそうしないのに、その誰かを、「そう扱っていい」と思ってしまうのか?
 そして、「お前のせいだ」と言うけれど――それは、本当に「そうされる人のせい」なのか?
 そんな疑問に、答えるとは言わないまでも、いろんな像を映し出して見せてくれた作品でした。
 この小説はDVを扱っています。(単行本は2004年刊ですし、説明するまでもないかもしれませんが。)
 私は江國香織の「よさ」がよく分からないのですが、江國香織とDVという組み合わせを面白く感じて読み、
 愛せないまでも、この人はすごくうまいな、面白いな… と、しみじみ思いました。
 単純に答えを出さず、善悪を提示せず、あるものをあるがままに描写してみせる、
 他の作品とは違う凄みのようなものをこの小説からは感じ、非常に深く、印象に残っています。
 文章のうまさは言うまでもなく、とにかく、澱みなくすぐに読めます。
 読んで損をしない一冊。冬の夜長に、ぜひ、どうぞ。
 

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)